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 近江商人の経営哲学

●はじめに

私の好きな言葉の一つに「温故知新」という言葉があります。

古きをたずねて新しきを知る、昔のことをよく調べ、新しい物事に適応すべき知識を得る、という意味です。


日本経済はいま低迷を続けています。ここから抜け出すヒントが過去の歴史の中にあるのではないか?

そう思い、いろいろ調べてみた結果、「近江商人」のビジネスというものにぶつかりました。

江戸時代中期、全国的規模で広汎にビジネス活動を行い、時には海外へも進出していた「近江商人」

現在もトヨタ、丸紅、伊藤忠、高島屋、日本生命、ワコールなど、近江商人に起源をもつ老舗企業は数多く存在しています。

明治維新をはじめ、数多くの激動期を乗り越えてきた「近江商人」の経営手法には、現在に生きる私たちに、少なからぬ「知恵」を授けてくれます。


何の資源を持たなかった日本が、ここまでの発展を遂げることができたのは、何よりも「ヒト」という資源の力にあるのではないかと思います。

それも誰もが知っている有名人ではなく、目立つこともなく、ただひたむきに努力を重ねた無名の人々による努力の結晶にあるといえるでしょう。

このような人々を輩出したそのシステムにこそ、日本の発展の原動力があったといって過言ではないと思います。

そして、この日本における人的資源のマネジメントのルーツといえるものは、いまから300年以上も前の時代に誕生した「近江商人」の経営手法の中にあるのです。



●「近江商人」とは

現在の滋賀県、琵琶湖周辺出身の商人で、その特徴は遠隔地行商から始まった、広域志向の商人であったことにあります。

近江地方の商人でも、その活動領域が近江地方だけに限定されたものは、「地商い」といい、いわゆる「近江商人」ではありません。

本拠は近江国に置くけれども、その活動領域は全国各地に及んでいる、これが近江商人のビジネススタイルです。

本店を中心に全国へ支店網を展開させるという、現在のビジネススタイルの原型といえるものといえますね。



● 近江商人の経営理念

近江商人とその他の商人を分ける最大の特徴は、その経営理念にあるといえます。

遠隔地交易という独特の商法により、その経営理念も独特のものがあったようです。

そして、この経営理念はそのまま現代にも適用できる優れたものです。


少しご紹介させていただきますと…。


1.「三方よし」

これは、「売手よし、買手よし、世間によし」のことを言い表したものです。

商売を行うからには儲からねば意味がありません、そのためにはお客さんにも喜んでもらわなければなりません。

ですから、「売手よし、買手よし」は当然のことといえますが、近江商人には、このうえに「世間よし」が加わって「三方よし」となります。

これは300年生き続けてきた理念で、近江商人特有のものとなっています。

自らの地盤を遠く離れた他国で商売を行う、近江商人においては、他国において尊重されるということが、自らの存在を正当づける根拠にもなりますから、「世間よし」という理念が生まれてきたといわれています。


2.「利真於勤」

「利ハ勤ルニ於イテ真ナリ」これは、「三方よし」が近江商人の存在理由であるとするなら、その任務は物資の流通にあると定めたもので、利益はその任務に懸命に努力したことに対する、おこぼれに過ぎないという理念を言い表したものです。

これは営利至上主義に陥ることを諫めたもので、経営の社会的責任というものを強調したものといえます。

西洋社会においては、キリスト教のプロテスタントの精神から、交換経済は人間に不可欠なものであるから、その機能を促進させる商人は、「神の意志」に即した行為を行うものである、このように宗教的理念から商人の存在が正当づけられているのに対して、

近江商人においては、特定の宗教というより、天下の需要と供給を調整するのが商人として天職、商人に課せられた社会的責任であるとの考え方で、これを完全に達成するために勤めるのであり、利益が目的で勤めるのではなく、利益は商人が責任を果たしたことについて添えられる潤いというべきものとする、近江商人独特の職業観、職業倫理であったといえます。


3.「陰徳善事」

これは人知れずよい行いを行うことであり、自己顕示や見返りを期待せず、人のために尽くしなさいという意味です。

人間の能力には限界があり、自分の努力だけではどうしようもないこともあり、そこから先は神仏などの「絶対者」に帰依するよりほかはないという、近江商人の宗教観を表したものといえます。


● 「近江商人」の人事管理手法

これらの経営理念は、近江商人の人事管理手法にも大きな影響を与えています。

近江商人の人事制度に関する特徴としては、雇用制度として近江出身者からの雇用、そして、その人事管理手法としての「在所登り制度」があげられます。

近江商人の奉公人制度は一般の風習と同じく10代の「子飼い」からスタートし、「丁稚」、「手代」、「番頭」と昇進し、支配人や別家となることをゴールとする、いわゆる「丁稚制度」でした。

近江商人は全国各地に支店を設けていましたが、そこで働く店員は本家のある近江地方から、主に派遣されていました。

これは経営を任せるに相応しい人物に育成するためには、その人物に対する詳しい情報が入り、身元の確かな人物を採用する必要があったからといわれています。

そして、その人事管理手法としては「在所登り制度」というものが行われていました。

近江商人は、遠隔地に出店しそこで奉公を行うため、一般の商家のように、親元へ帰り休養を許されるという、「薮入り」を毎年行うことはできません。

そこで奉公人に、一定の年数を経たのち帰省をさせる制度をつくり、これを「在所登り」といっていました。

これは、この登りの回数を重ねるにつれ職位や報酬が変わっていくという、いわば昇進制度でもありました。

そして、この在所登りは奉公期間の区切りとして勤務評定をする重要な節目となっていました。ですから、このときに解雇される者も少なくなかったそうです。

つまり、近江商人におけるこの「在所登り制度」は、終身雇用を保証し年功を重んじるよりも、能力主義による人材選抜手法として機能していたといえます。

近江商人においては、その経営理念から、先祖から受け継いだ資産を守り、それを増殖させることが後継者の役割であるという考え方が強く、そのため徹底した能力主義経営が貫かれていたようです。

これは主人に対しても適用されており、「押込隠居」といって、経営能力のない後継者は強制的に経営から退けられることもあったそうです。

また、商売を通じて得た利益金を、本家上納・内部留保・店員配当という3つに配分するという、「三ツ割制度」というものがあり、この店員配当(出精金)により、支配人、奉公人に対しても事業経営へのインセンティブを与え、経営への一体感を高めていました。

支配人をはじめ奉公人にも利益配当がもたらされ、それにより彼らに刺激を与え、より大きな経営成果をあげるようなしくみになっていたのです。

このことは近江商人の経営における奉公人の重要性がうかがえ、奉公人の良し悪しがその経営を大きく左右することを、深く理解していたといえるものです。

近江商人における人事管理手法は、このようなことから考えて、徹底した「能力主義」が採用されていたと判断して差し支えないかと思われます。

では、近江商人においての人材の評価はどのようなものだったのでしょうか。


● 近江商人の人材評価基準

一般的に商人に大切なこととしては、「才覚」と「算用」だといわれています。

市場の状況の変化に即応して、知恵を絞り、他の者に先んじて効果的な手を打ち、また、常に損益状況を考え、不慮の損失を蒙らないように計算する。商人とはこうあるべき、普通はこのように考えられています。

しかし、近江商人が遺した家訓などからはこのような考え方は出てこないそうなのです。

それどころか、反対にこのような考え方を抑えるような主旨のものが多いそうです。

近江商人の販売の極意に「売って悔やむ」というものがあります。

これは、顧客の望むときに、売り惜しみせずに販売し、売った後で、これほどの人気商品をこんなに安い値段で売るのはちょっと惜しいと後悔するような取引をせよ、というものです。

これは、売り手が損をしたと感じるということは、買い手は儲かるということであり、それが商売を長続きさせる秘訣であることを説いたものです。

近江商人の商売の考え方は、短期的利益を追うのではなく、長期的視点で物事を考える
ここに独特の特徴があるように思われます。

この長期的視点で物事を考えることは、支出や消費に対する態度にも表れており、これは「始末と吝き(しわき)」の違いとして、よく言い表されています。

「吝き」とは、必要な支出や消費までも厭うという、いわゆるケチのことで、近江商家ではこれは良くないこととして伝えられているそうです。

これに対し「始末」とは、単なる倹約のことではなく、たとえ高くつくものであっても、本当にいいものであれば長く使え、その効用も高くなり、結局は得をするというものです。

近江商家ではこの「始末」ということをとても重視していたようです。

つまり、この「始末」とは長期的経済合理性を説いたもので、ロングタームで物事を考える近江商人の考え方をよく表したものといえます。

そして、このことは近江商人の人事管理ついても、この長期的視点で物事を考えることが、よく表れているように思われます。

これは「陰徳善事」の理念も大きく影響していると思うのですが、近江商人においては人材を評価するときに、その人の商売の能力だけを評価することはありません。

ある特徴的な項目がその評価基準に加えられているのです。

この評価項目は、近江商人の流れをくむ現在のトヨタ自動車においても、重要なコンピテンシー項目とされているそうです。

そして、これは他の企業ではあまり見られない特徴となっているようなのです。

近江商人に特徴的な人材の評価項目、とは一体何なのでしょうか?

近江商人に特徴的な人材の評価項目、それは…、人望や性格といった、「人間性」を重要な評価項目としていたのです。

近江商人では、この人間性に対する評価は、丁稚奉公を何年か続け、20歳くらいになった時点で行われていたそうで、このとき、冷酷な者を避け、性格が誠実で忍耐強い者を引き立てるように定められていたそうです。

人間性の方をより重視していたのです。

これは、長期的視点で考えた場合、その人の才覚よりもその人間性を評価した方が、結局は、高い業績をもたらすからであったと考えられます。

近江商家では先にご紹介した経営理念に即して、人材の評価についても行われていたといえます。

また、現在のトヨタ自動車においても、「人望」という項目が人事評価項目に加えられています。

これはトヨタがその人材の人間性を重視していることの現われといえます。
(この項目を評価基準に加えている企業はとても少ないそうです)

近江商人の経営においては、人材、特にその「人間性」をとても重要視していたのです。


● さいごに

以上、近江商人について簡単に見てきたわけですが、「三方よし」をはじめとする、特徴的な経営理念、そして、それに厳格に対応して行われる人事管理・評価制度。

300年以上も続いてきた老舗企業である「近江商人」の商売の考え方には、本質的な「何か」が含まれているように思います。

そして、このような考え方は影が薄いものになってきているような気がしてなりません。

日本においても、能力主義的人事評価が主流になってきつつありますが、どうもそれが、いまの業績だけをみる、短期的視点のものであるように感じられます。

企業経営の目的は利益だけではありません、その企業を存続させることもとても大切なことです。

そうであるならば、やはり長期的な視点をもって経営というものを考えていかねばならないでしょう。

そう考えたとき、300年以上もの歴史を持つ「近江商人」の考え方を学ぶことは、決して無駄なことではないように思えるのです。



−参考文献−
小倉榮一郎 『近江商人の金言名句』 中央経済社 1990年
小倉榮一郎 『近江商人の経営管理』 中央経済社 1991年
末永國紀   『近江商人 現在を生き抜くビジネスの指針』 中公新書 2000年
上村雅洋   『近江商人の経営史』 清文堂 2000年
片山  修   『トヨタはいかにして「最強の社員」をつくったか』 祥伝社 2002年


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